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顔。
 
ずっと昔の、子供の頃の話
うちの近所に親類のじぃさんが住んでいて
親類といっても、遠い遠い、ほとんど他人のひと
貧乏で、学が無くって、馬鹿にされて、こき使われて
っていう苦労は、まぁ下町じゃあよくあることで
じぃさんの顔にも、深く深く刻まれた皺


その年のお正月は、いつもとは違って
めったに会わないじぃさんのところへも年始のご挨拶へ
どうやらじぃさんの家にめでたいことがあったらしく
あちこちから親類がたくさん集まってきてたみたいだった
狭い家の中は見知らぬ大人でごったかえし
居場所が見あたらないっていうか
そういう状況は、僕にはとても気まずく思えて
だから、家人らしきひとへの挨拶がすむと、ひとり、表へ

さびた郵便受けが紐で括り付けてある門柱
表の土壁は、途中から朽ちかけたトタンになっていて
そのトタンの壁が途切れたところが、じぃさんの工場
まぁね、工場とはいったものの、ですゎ
その辺に捨ててあった廃材を寄せ集めて、積み上げたような
貧乏で、学が無くって、馬鹿にされて、こき使われて
それでも死にものぐるいで働いて、どうにか、やっとの思いで
雨風もしのげるかどうか、の、ボロボロのほったて小屋を


正月の昼下がりの下町は、往来に人影はなくて
かすかに漏れ聞こえる笑い声をのぞいて
あたりは、とても静かだったように思う
そのせいか、ブンブンとうなるモーターの音
低く低く、ブンブンと響いていて
父母を待ちわびていた耳によく通る音だった

壁に沿って、トタンの途切れるところまで
あと少しのところまで歩いて、突然、油の匂いが強くなって
驚いて顔をあげた目の前に、じぃさん
機械のオイルで煮染めたような服と、同じ色の皺の顔
まったくもって正月には似つかわしくない姿に、全身がこわばる
 
しばらく無言で見つめていた皺が、少し歪んだように見えた
思わず目をそらすと、差し出されたオイルまみれの手
皺とは違って、真新しい1000円札が握られていた
親類とはいえ、あまり親しくはないひと
というよりも、まったく知らないアカの他人と言った方が心情には近くて
しかも、風態身なりが、あきらかに時節にそぐわない
って、はっきりいうと、時節に関係はない
ためらわずにいえば、卑賤ということばこそ似つかわしいような
親類とはいえ、やっぱり、そう思わざるを得ないような、異様なひと
そのひとが、どうやら自分におかねを呉れるらしいけど・・
と、どうしたものか途方に暮れているところに、皺の手がいっそう近づいて
じぃさんと同じく、無言で受け取ると、無言のじぃさんは、自分の小屋へ


真新しい1000円札を受け取った後のことを
とりわけ、そのとき自分が何を思ったのか
そのときの気持ちがどういうものであったのかを
それをことばにするのには
昔々のことでした、なんてぇなことで決着つけるには
やっぱり、まだまだ早いかと思うので
ともかくも、事実だけをいえば、次の通り
真新しい1000円札は、破り捨てました
トタンに沿って流れていた、油の浮いたドブ溝に破り捨てて
それから、ともかくも一目散にその場を走り去って

近くをぐるぐると回って時間をつぶし、父母を待つ
それから30分くらい経った頃だったか
もうそろそろかな、と思って門柱の傍まで戻ったとき
その先のトタンの傍らに立ちすくむ人影
無言のまま、じっとドブ溝を覗き込むじぃさんを見ました
苦悶、悲哀、怨嗟、落胆、それから、悔恨
どう形容すればよいか、ともかくも怒りはなかった、ような
ひとが最期の審判のときに垣間見せるような、歪んだ皺
どぉしようもないことが、確かにあるんだな
どぉにもならないことが、と、諦念まじりの哀切
たとえていうなら、そういう顔でしょうか


おかねで苦労したひとっていうのは
おかねを大切に思うのは当たり前のことで
そういう大切なおかねは、なによりも価値があるわけで
おかねで買えない価値がある
なんてぇなどこぞの金貸しのキャッチコピーなんかは
だからやっぱりタダの戯れ言に過ぎんわけで
やっぱりプレゼントには気持ちのこもった品を渡さないとね
って意見には、それはそれで大いに賛同するけれど
だからといって、ちょっと待て、チョット待ってくださいな
プレゼントにはね、たとえば洒落た花束なんかを渡すもんであって
おかねを渡すなんてぇなことをする奴は下品なワケだょ、君
って言い切っちゃうようなひとたちについてはですね
確かに貴方は上品ではあるかもしれんけれども
だけどぼかぁ貴様のような方につきましては、どーも、ね
少し、まったく、納得でけんよーなとこがございまして
したがって、まことにもって僭越ではございますが
若輩者の私ってば、テメェのようなやつが、大嫌いなんですゎ
と、声の限りに言い放ちたい、わめき散らしたい
喉ょ張り裂けょ、臓腑ょ溢れ出ょ、と、奥底から、力いっぱい
でもって、過去は過ぎ去ったもの、とも断じて言いたくはなくって
昔々のことでした、なんて慰めのことばのかわりに
ノドもと過ぎ去ろうとするところ、呼び戻す
執拗に追いかけて、ひっつかまえては、絶叫、絶叫、絶叫
エコーが消える前に、繰り返し、でもってたぶん、生涯を通して



さびたトタンの廃材工場と、たっぷりと油が刻まれた皺と
きれいに折り畳まれた真新しい1000円札と







にしても、ヲチがあるようなないような
いつもにも増してムチャクチャな文章ですね(´・ω・`)
by mockin_snofkin | 2006-02-20 23:27 | 来し方、行く末。